クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「……恥ずかしいこと言ってんなよ」
照れたように、困ったように、笑みを浮かべた八坂さんを見ながら口を開く。
声が掠れて、水を飲んだばかりなのに、喉はカラカラしていた。
「好きだったんです。身体は大きいのに、こどもみたいに無邪気に笑うところが。なのに、別れる少し前から、私の前では笑ってくれなくなったから……私が笑顔を奪っちゃった気がして、ずっと悲しかった」
大好きだった笑顔を、私の前でしなくなったのはいつからだっただろう。
校舎内、移動教室のときにたまたま見かけた八坂さんは、知らない人と笑っていて……そのときに感じた胸の痛みさえ、今も残っている。
私に笑ってくれないから、悲しかったんじゃない。
他の子に笑ってるから、悔しかったんじゃない。
私が、あの笑顔を奪ってるんだってわかったから、痛かった。
いつもは強面の八坂さんが、くしゃって笑うところが、大好きだったから。
「……悪かったよ」
八坂さんが、私の頭を撫でながら言う。
バツが悪そうにしている八坂さんが、熱のせいか、浮かんだ涙でぼやけていた。
「八坂さん、今、笑ってますか? 楽しいですか?」
私のことなんてどうでもいい。
八坂さんが、あの頃みたいに笑顔でいられているなら、それでいい。
その隣にいるのが私じゃなくていいから……笑っていてほしい。
見つめる先で、八坂さんは少し黙った。
薄暗いなか、視線が重なる。
「おまえには、どう見えてる?」
静かに問う八坂さんの顔が、グラグラと揺れていた。
熱を持つ、眼差し。
グラグラ、ゆらゆらと、視界がぶれる。