クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
八坂さんがパパッと作ってくれたのは、フレンチトースト。
切り口からは、チーズがとろりと溶け出していて、なかにはハムも見える。
うちの冷蔵庫にあった食材とキッチン用具で、いったいどうすればこんなオシャレなものができあがるんだろうと、真剣に疑問に思った。
「そんなに無骨そうなのに……」
私なんかより、ずっと手際がよくて少し腹立たしくなって言うと、八坂さんは満足そうに笑う。
「めぐよりは料理できるかもな」
「まぁ、まだ熱がありますからね」
「おー。言うな。だったら熱が下がったあとの言い訳探しとけよ」
ムッとしながら、小さく切ったフレンチトーストを口に運ぶ。
カリッとした表面をかむと、中からはじわりと卵液やチーズが出てくる。
そこにハムの塩気も加わり、病み上がりなのに、普通においしく感じた。
「……おいしい」
「悔しそうだな」
ニヤニヤしながら言われて「悔しいほどおいしい」と返すと、八坂さんは嬉しそうな笑みを浮かべコーヒーを飲む。
私のぶんは、カフェオレだ。ブラックが飲めないって、まだ覚えていたのかと思い、胸の奥がじくりと痛む。
お礼を言ってから食べ始めて、少ししたところで、そうだと思い出す。
「毛布、出してもらっちゃってすみませんでした」
「ああ。寒そうにしてたから。三枚かけたら苦しそうにしたから、一枚戻した」
トーストをかじりながら言われ、驚く。
苦しそうにしてたって……苦痛に顔を歪めてたってことだろうか。
今さらながら、寝ているところを見られていたと思うと恥ずかしい。
「付き合ってたのに、寝顔って見たことなかったから。なんか新鮮だった」