クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
テレビが映すのは、ニュース番組。
キャスターの落ち着いた声だけが聞こえる部屋に、八坂さんの言葉が落ちる。
重たく感じるそれに、どう反応すればいいのかわからず、黙ったままフレンチトーストを頬張った。
付き合っていたころは、高校生だったから泊まりでどこかに行くなんてことはなかった。
お互いの部屋に泊まることももちろんない。
だから、言われてみれば今回が初めてのお泊りだったのか……と今さら気付く。
気付くと同時に、鼓動が甘く高鳴るから、奥歯をギュッとかみしめた。
こんなのは……ダメだ。よくない。
期待したところで、どうにもならないと自分を言い聞かせ、笑みを貼りつけ口を開く。
「倉沢さんが言ってました。八坂さんには、誰か特別な子がいて常にその子と周りを比べてるって」
ちゃんと、現実を思い知るためにも、話題に出さなきゃダメだと思った。
八坂さんに彼女の存在を認めてもらわないと、私はきっと、色んなことに期待してしまう。
あと二日だしいいやって思っていた。
でも、ダメだ。
確認しておかないと、ちゃんとストッパーを作っておかないと、きっと、うっかり気持ちが口をついてしまう。
八坂さんは、コーヒーを飲みながらわずかに眉間にシワをつくる。
倉沢さんの名前に反応したみたいだった。
「別にそんなこともないけど……なに、あいつそんなこと言ってたのか?」
「はい。〝女ならもっとおしとやかじゃないと〟とか〝飲みすぎ〟とか。誰と比べてるのか知らないけど、特定の誰かがいるのは確かだって言ってました」
カフェオレを飲むと、わずかな甘さが口の中に広がった。
私が飲めるように、砂糖まで入れてくれたんだなと思うだけで、胸がぎゅうぎゅうとして痛い。
でも、この優しさは、私が今受け取っていいものじゃない。
それを、きちんと思い知る必要がある。
ニュースだけが聞こえる静かな部屋。
八坂さんは後ろ頭をガシガシとかきながら目を伏せた。