クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


「まぁ、外れてはいないけど」

少し、照れているような、ぶっきらぼうな言い方だった。
伏せた視線の先にはきっと、彼女を思い浮かべてるんだろうとわかり、頭がグラっと揺れた。

「大事なヤツならいる。もう随分前からだけど」

付き合っていたころ、やきもちを焼いたあと見せる表情と、口調が重なり……ああ、と思う。

〝特別な誰か〟の存在を認めた八坂さんをじっと見つめる。

まだ熱があるせいか、ハッキリとしない頭の中に、八坂さんの言葉が落ちる。
穏やかな水面に落ちた水滴みたいに、身体中を波紋が広がっていくのがわかった。

痛みの波紋が。

倉沢さんから聞いて知っていたハズなのに……本人の口から告げられることが、こんなにもショックなんだと初めて知る。
比喩なんかじゃなく、本当に胸が痛い。

「めぐは?」

気付けば、視線を下げ呆けてしまっていた。
呼ばれて顔をあげると、八坂さんと目が合う。

「え?」
「めぐは、そういうヤツ、いるのか?」

いつかもされた質問だ。
その時は、誤魔化してしまった問いに、今度は答える。

「いますよ。それなりに」

意地を張ったわけじゃない。
ただ、いないって答えたら、八坂さんが変に気にしそうでそれが嫌だった。

それに……〝特別な誰か〟だったら、今目の前にいる。
だから、嘘じゃない。

「いつから?」

続く問いかけに、カフェオレを飲みながら微笑む。
マグカップがさっきよりも重たく感じた。

「さぁ。でも、長いです。一途なので」

ハッキリと言い切ると、八坂さんは私をじっと見たあと、わずかに口の端を上げた。



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