クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「そうだったな。めぐは、真面目で、気が強くて頑固で……」
「悪口ですか」
「褒めてんだよ」
見れば、柔らかく細められた瞳が私を見ていて……私もそこに視線を重ねた。
目の前にいるのに。
私を見てくれているのに。
その優しい瞳も、無骨そうに見えて器用な手も、柔らかく触れる指先も、なにひとつ私のものにはならない。
再会したときには、たった二週間という短い時間を恨んだりもしたけれど。
今となっては、それでよかったと思う。
これ以上一緒にいたって、欲しくなるだけだから。
見つめる先で、八坂さんがなにか言おうと口を開いたのを見て、先に言う。
「ありがとうございます。これ、食べたらまた寝るので、八坂さん、今度こそ帰ってくださいね」
目を伏せ言うと、少しの間のあと、八坂さんが「おう」とだけ答えた。
それから八坂さんが帰るまでの数十分。
一度も目を合わせなかった。
『頑張って気持ち伝えるのは、自由ですよ。彼女がいるから告白さえ許されないなんてこと、ないんだから』
『好きになった人ですもん。信じてぶつかればいいんですよ。知りもしない彼女を気遣っていい子ぶってたら、チャンス逃しちゃいますよ』
別に、八坂さんの彼女を気遣ってのことじゃない。
ただ……八坂さんを困らせたくないだけだった。
告白して振られることは、怖いけど大丈夫だ。
……でも。
八坂さんから、また私が笑顔を奪うのかって考えたら……。
八坂さんの瞳が私を映したまま、失望を浮かべていくのかって考えたら……それが怖くて、好きなんて言葉は声にできそうもなかった。
振られるのは、怖くない。
でも……八坂さんに嫌われるのは、怖い。
たとえ、この先もう会うことがなくても。
どうせ、一度壊れたふたりの関係は元に戻せないのなら。
今ある、八坂さんの幸せは、壊したくなかった。