クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「はい。広田さん、これ、この出納機の使い方の要点です。エラーが出たときの、コード別の対処法が書いてあります。
あとは、週一で行う精査点検時の流れと、かかる時間、出やすいエラーコードを書いておきましたから参考までにどうぞ」
今回、ここに派遣されてからずっとつけていたノートを渡す。
広田さんは、それを受け取るとペラペラとめくり、中を確認してから「ありがとう」と小さな声で言った。
「特に問題はなさそうですか?」
広田さんが昼休みに入った、十二時。
最後にと、出納機の点検をしていると、吉川課長に話しかけられた。
進捗具合を聞いているんだろうと思い、笑顔を向ける。
「はい。広田さんも北岡さんも、もうなんの問題もありません」
「そうですか……それならよかった。自分が預金の課長職についてから、出納機の入れ換えっていうのは初めてだったものですから。
勝手がわからず、迷惑かけてしまい、申し訳ない」
ホッとした表情で言う吉川課長に首を振る。
来店客はなく、店内は穏やかな空気が流れていた。
「いえ。私も勉強させていただきましたし……」
「あ。瀬名さんー、これ、いいですか?」
会話を切るように話しかけてきたのは、星さんだ。
いつも広田さんのことを悪く言っているうちのひとりで……たぶん、中心人物。
茶色いショートの髪に、ばっちりほどこされたアイメイクが印象深い子で、私よりもふたつ年下だ。
メイクについては、あと少しでも派手になったら注意がいくレベルだって北岡さんが言っていたけど……金融企業の職員としてはたしかに派手だと思う。
まつげがバサバサしてる。
そんな星さんが〝これ〟と言ったのは、カルトンの上にある両替票。
乗っているのは千円で、両替票に書いてある内訳は、十円玉で百枚。
来店客からの依頼ではなく、午前の訪問先で営業が頼まれてきたもののようだった。