クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「もう何度も言いましたが、私個人ではお金を動かすことはできませんので……」
これで何度目だろう。
二週間言い続けてもこうして平気な顔して言ってくる星さんに、げんなりしてしまう。
「えー、でも私まだできませんし」
『できませんし』じゃない。
広田さん以外の預金課の職員も入出金と両替くらいはできるようコーチしてきたつもりだ。
なんなら、八坂さんや倉沢さんだって覚えてる操作だ。
星さんにはたぶん、覚える気がないんだろう。
何度も教えたけれど、そのたびに星さんは〝なるほどー〟って軽い返事をするだけだったから。
「その両替、急ぎですか?」
一応聞くと、星さんは首を振る。
「いえ。午後の営業で持って行きたいみたいなんで、それまでにできてれば問題ないって感じです。
十四時くらいまでで大丈夫じゃないですか?」
「あ、だったらあと三十分もすれば広田さんが戻ってくるので、広田さんから教わってください」
私は明日にはもういなくなるんだし……と思い提案すると、星さんは顔を歪めた。
「えー……広田さんにはちょっと……私が下手に出て、教えて欲しいとかお願いするのは気が進まないっていうか……」
星さんが、嫌そうに言う。
あまりの言いぐさに、私も吉川課長も呆然としてしまっていると、星さんが続けた。
「やっぱり、瀬名さん、もう少しいてくれません? 瀬名さんから、瀬名さんの上司に話通せば、あと何日かくらい、大丈夫でしょ?」
漫画とかによくある〝ポカン……〟っていう効果音は、こういうときにつくんだろうなと思う。
私と吉川課長の頭の上には今、大きなそれが浮かんでることだろう。