クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「あと何日かあれば、私、覚えられそうですし。ちょっとコーチが遅れちゃって……とか言えば、きっと大丈夫ですよ。だから、ね?」
二週間あって覚えられないことが、なんであと数日で覚えられると思うんだろう。
文字通り、かける言葉もなく黙ってしまう。
吉川課長も同じようだった。
なにも言えない私を見て、「ね、瀬名さん。お願いします」と、コテンと首を傾げる星さんに、いよいよ眉を潜めたとき。
「ふざけんな」
後ろから誰かが言った。
〝誰か〟と言っても、この支店内でそんな口の悪い人はひとりしかいないし、声ですぐにわかった。
営業から帰ってきたところなのか、営業カバンを持ったままの八坂さんが顔をしかめて星さんを見る。
「日数伸ばして欲しいっていうのは、百歩譲るとしても、それは星から上に頼むことなんじゃねーの。自分が覚えられないからって理由で。
なに、めぐの責任にしようとしてんだよ」
ドカドカと歩き、私の横に立った八坂さんが星さんを見下ろす。
「あんだけ毎日残業しておきながら、両替の操作も覚えられてないのは、そもそも覚える気がねーからだろ。
だいたい、日数伸ばしたぶん発生する金は誰が支払うと思ってるんだよ。星のわがままで頼むんだから、星が払うっていうならわかるけど。
どうせ会社の金だから自分には関係ないとでも思ってんだろ」
言い方はキツイけれど、言っている内容は正しいだけに、星さんをフォローする気にはならなかった。