クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「ああ、それはその通りですね。休みの日とかに仕事の話されても嫌ですもんねぇ」
「まぁ、それもありますね。だから、電話番号やアドレスを聞かれても、会社の番号を教えてます」
苦笑いを浮かべながらジンジャエールを口に運んでいると、襖がノックされクリームあんみつが運び込まれる。
八坂さんと私のぶんだ。
クリームあんみつの入った黒い小鉢を渡すと、八坂さんは「ん。さんきゅ」と短く言い、そこにスプーンを差し入れる。
それから「電話番号とアドレス」と呟くように言った。
「え?」
「あれから、変わった?」
聞きながらも、八坂さんの視線はクリームあんみつに向けられたままだった。
目を伏せ、私を見ないまま返事を待つ八坂さんの横顔を少し眺めて……それから、ふっと息を抜くように笑みをもらす。
『あれから』は、高校のときを指すんだろう。
付き合っていたときのものから……七年前のものから、変わったかどうかを。
「さぁ。どうですかね」
意地の悪い答えだったのに。
八坂さんは、なぜか自嘲するような笑みを浮かべて「あっそ」とだけ言った。
別れ話になる間際、よく見せていたその笑みに……胸の奥底にしまっていた思い出の箱が、音を立てて開いた気がした。