クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


「今日、仕事が終わって更衣室に戻ったら、私のロッカーのなかにこれが置いてあったんです」

カバンの中から取り出して見せたのは、楕円形のケース。

濃紺色のプラスチックケースには、白いラインで上品な柄の縁取りが描かれている。
いつも、広田さんのデスクの上にあるハンドクリームと同じものだった。

「いつか、手が荒れてるって話になったことがあったんです。だから、それを覚えていて、わざわざ用意してくれたのかなって」

あの広田さんが、私のために行動を起こしてくれたのかと思うと、胸も瞼も熱くなってしまう。

北岡さんは「へぇ……あの広田さんから?」と驚いた顔を浮かべたあと、にこりと微笑む。

「やっぱり、私には憎めないんですよね。周りがどう言おうと」
「私もです。だから、あの支店のなかで、北岡さんが広田さんの見方になってくれてて嬉しく思います」

なごやかだった空気のなか、それを崩す様なトーンで話し出したのは倉沢さんだった。

「えー、プレゼントとかしてもいいなら俺もなにか用意すればよかったー」

私の手のなかからハンドクリームのケースを奪った倉沢さんが、駄々をこねるみたいな口調で言う。

そして、ケースを裏返し、成分やらなにやらが書かれている部分を見ながら口を尖らせる倉沢さんに、そういえば、とあることを思い出す。

隣で、北岡さんが他の職員と会話を始めたのを聞きながら倉沢さんに話しかけた。

「以前、〝お詫び〟とか言ってましたけど、あれって結局なんだったんですか?」

そんな言葉と一緒に手の甲にキスされて、しかもそれを八坂さんに見られていたことを言うと、倉沢さんは「ああ、あれね」と言う。

私の手のひらにハンドクリームを返しながら、倉沢さんは違う方向に視線を一度向けてから、私を見た。

その表情には、呆れたような笑みが浮かんでいる。


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