クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「たしかに、特定の誰かがいるような口ぶりだったけど……八坂さんの態度見てると、どうしても違うんじゃないかって思えてきちゃってさ。そうであって欲しいっていう、俺の欲目かな」
そう笑った倉沢さんが、私に視線を移し目を細める。
「俺は、見た事もない彼女より、瀬名ちゃんに傷ついて欲しくないから」
よくこんなにも懐かれたもんだな……と思いながら「それは、ありがとうございます」と返したとき、「そろそろお開きとしまーす」とどこからか声が上がった。
時計を見ればもう、二十一時を過ぎている。
各々が荷物を持ち部屋を出るなか、私も荷物をまとめたところで、隣にいた倉沢さんに手をとられた。
「瀬名ちゃん、ここ切れてる。血が出てるよ」
倉沢さんに言われ見ると、確かに左手人差し指の先に切り傷ができていて、血が滲んでいた。
そういえば今日の日中、紙でサッと切ったんだっけと思い出す。
その時は、血が出てくる気配もなかったから放っておいたけど……なにかの拍子に傷口が開いたのかもしれない。
私たちを残し、他のひとたちは次々に部屋から出て、通路を歩いて行く。
「夕方、紙でやっちゃって。その時は血は出なかったんですけど」
「お店に頼んで絆創膏もらおうか?」
「大げさですよ」
私の手を握ったまま、傷口を心配そうに見ている倉沢さんに呆れて笑う。
「でも、一応……」
「本当に大丈夫ですから。こんなの放っておけば――」
「――そ。こんなの、舐めときゃ治る」
突然、上からそんな声が降ってきたと思った、次の瞬間。
誰かの手が、倉沢さんから奪うように、私の手を強引にとった。
そして、見上げたと同時に、腰を折ってかがんだ八坂さんが私の指を口に含んだ。
口のなかで、傷口を舐める舌の感覚にハッとし、なにをされているのかを理解すると同時に顔が一気に熱を持った。
真っ赤に染まったのが自分でもわかるほどだった。