クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「や……っ、なに……っ」
〝八坂さん、なにしてるんですか〟
言おうとした言葉が、気が動転してしまい、うまくつながらない。
せめて手は振り払おうとするのに、がっしりと手首を掴まれているせいでそうできない。
その手首をぐいっと引き上げられ、されるがままに立ち上がると、八坂さんはもう片方の手で私の荷物を奪った。
「倉沢。こいつのこと、あんま触ってんじゃねぇ。それが恋愛感情でもそうじゃなくても見ててイライラする」
「え」と、声が重なった。
私と倉沢さんの驚いた声だ。
でも、八坂さんはそんなの気にするでもなく、倉沢さんに、ふんと鼻をならすとスタスタと歩き出す。
手を握られたままの私も、それに従って歩くしかなかったけど……。
握る手の強さと真剣な横顔に、なにも言葉が出なかった。
だって、この横顔は……不貞腐れたような、この表情は。
高校のころ、何度も見た顔だ。
やきもちを焼いていたときの顔だったから。