クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「なに、触らせてんの」
真っ直ぐな瞳で言われる。
辺りは心もとない街灯だけで暗いのに、八坂さんの真剣な表情はきちんと見えた。
「おまえが真面目なの知ってるし、段階踏めって言うなら、その通りだと思ったからそうしようと思ったけど……やっぱり、無理だ。そんなことしてる間に横からかっさらわれるのなんか、耐えられない」
手を握る力が強くなる。
公園に入ってから、もっと言えば居酒屋を出たときからずっと、驚きや疑問、色んな感情が詰まってしまっていた喉と胸に、すっと空気を吸い込んだ。
そして、八坂さんと視線を重ねる。
「ひとつ、確認させてください」
そう告げると、八坂さんはわずかに驚いたような顔をしてから「なに」と静かに聞いた。
「八坂さんには、恋人がいるんじゃないんですか?」
彼女がいる。
それは、倉沢さんに聞いたし、私も確認した。
でも、八坂さんは彼女がいながら私にこんなことする人じゃない。
今までの言動は、親切とか懐かしむ気持ちからなのかなって片付けられた。
でも、今日のコレははっきりしすぎている。
――そういう好意からだって。
だから、おかしいと思って聞いた私を、八坂さんは眉を寄せて見た。
「は? いるわけねーだろ。いたらおまえにこんなこと言ってない」
嘘をついているようには見えない。見えないけど……。
この二週間ずっと、八坂さんには恋人がいるって思ってきただけに、すんなりとは受け入れられない。
油に弾かれる水みたいに、八坂さんの言葉が入り込まずに宙に浮かんでいた。
頭のなかが、大混乱だった。
「でも……倉沢さんは、いるみたいだって言って……それに、私にだって言ったじゃないですか」
言葉を詰まらせながら聞いた私から目を逸らさないで、八坂さんが「なにを?」と聞く。
電車がまた一本、走っていく音が聞こえた。