クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「特別な人がいるんですかって聞いたら、いるって……」
私の部屋でたしかに聞いた。
だから言うと、八坂さんは「は?」とわからなそうに眉を寄せてから、思い出したように「ああ、あれか」と続ける。
「あれは、おまえのことだろ。特別なヤツ」
たっぷり、五秒は黙ってしまっていたと思う。
それから、そんなわけないとか、まさかとか、そんな考えがじわりじわりと浮かびだした。
八坂さんは嘘をつくような人じゃない。
それでも……すんなり信じるのは無理だった。
「だって……倉沢さんが、八坂さんはいつも誰かと比べてるみたいなこと言って……お酒飲んだからって積極的になる子は嫌だとか、そういうの、比べる誰かがいるんじゃないんですか? そういう口ぶりだって聞きました」
じっと見上げながら言うと、八坂さんはバツが悪そうに眉を寄せ、目を逸らす。
そして、不貞腐れたような表情をして「だから、それもめぐ」と言った。
「意味がわかりません」
だって、私と再会する前から、八坂さんはそういうことを言っていたって聞いてる。
八坂さんは面倒くさそうに「だから」と続けた。
「めぐだったら、こういうことはしねーだろうなとか、そういう……」
はぁ……と大きなため息が落とされ、情けなそうに歪んだ眼差しで見られた。
「気持ち悪いかもしれないけど、俺の基準は全部おまえだよ。付き合ってるときから、別れたあともずっと……くそ。カッコわりぃ」
私の手を握ったまま、もう片方の手でガリガリと後ろ頭をかく八坂さんをしばらく眺めて……やっと、言葉の意味を理解する。
八坂さんが伝えてくれていることが、やっと心に染み込んでいくみたいだった。
じわっと染み込んできた想いに押し出されるように、涙が浮かぶ。
だって、こんなの……こんなの。