クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「なぁ。めぐ」
柔らかい髪が耳にあたる。
八坂さんの顔が、すぐそこにあって……その重みに心臓が驚きすぎて動きを止めた気がした。
八坂さんの肩越しに、星の散らばった空が見える。
「一回だけでいい。俺にチャンスくれ。……好きだ」
ハッキリと言われた『好きだ』の言葉が、鼓膜を甘く震わせた。
八坂さんの言葉を受け入れることだけでいっぱいいっぱいだった胸に、これでもかってほど大きな衝撃が広がり……たまっていた想いが弾きだされる。
「チャンス、一回だけでいいんですか?」
現実かどうかも疑いたくなるほどの告白に溢れそうになった涙を、ぐっとこらえたせいで、涙声になってしまった。
それでも、気にせず続ける。
「私は、そんなんじゃ足りません」
八坂さんが、ゆっくりと頭を上げ、離れ……目を合わせる。
驚いている様子の瞳をじっと見上げて言った。
「八坂さんは、どうせまたつまらないことでへそ曲げて、〝もういい〟とか咄嗟に言っちゃうんですよ。そのたび私もこりもせずに頭にきて、〝わかりました。もういいです〟とかきっと返しちゃいます」
何度もしたケンカだ。
もう、わかりきってる。
「一緒に居たら、そんなことを、これからきっと何十回も何百回も繰り返すんです。だから……私は、一回じゃ足りません。何度ケンカしたって一緒にいたいから。せめて千回くらいはチャンスが必要です」
堪えていた涙が必死に見上げる瞳から落ちる。
それを見た八坂さんは、表情からじょじょに驚きを消した。
そして、ふっと情けない顔で笑いながら、私の涙を指先でぬぐう。
「つまんねーことでへそ曲げるとか、俺、どんだけ心の狭い男だと思われてんの」
「おちょこくらいですかね」
即答すると、八坂さんはおかしそうに笑って……それから「俺を好きだってことでいいんだな?」と、確認をとるように聞いた。
「はい」
答えた直後、ぐっと腰を抱き寄せられそのままキスされる。
身長の高い八坂さんとのキスは、かなり見上げないとできないから息苦しい。
でも、そんな息苦しささえも嬉しくて愛しくて……気付けばボロボロと涙が落ちていた。