クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
そして、倉沢さんや北岡さんと別れたあと、当然のように私を送ってくれた八坂さんとアパートの前で向き合う。
二十一時を過ぎた星空の下、八坂さんがいつもとは違う、真面目な雰囲気を出しているように感じ……緊張なんだか期待なんだかわからない空気に戸惑う。
黙ったままの八坂さんに「お茶でも飲んでいきますか?」と声をかけると、わずかな沈黙のあと、八坂さんが笑みを浮かべる。
苦笑いに近いものだった。
「それ、どういうつもりで言ってんの?」
「どういうつもりって……」
「前、めぐを看病としたときと今は違うってわかってるか? 俺たち、付き合ってるってわかって言ってんのか?」
ようやく、八坂さんが言いたいことがわかり、口ごもる。
恥ずかしさに襲われ思わず目を伏せると、八坂さんはひとつ息を吐いたあと静かに告げた。
「俺は、自分の女の部屋にあがってなにもしないでいられるような男じゃない。相手がめぐって時点で……もう、なんか色々限界だし、間違いなく襲う。おまえが嫌がったって力にもの言わせて好き勝手……」
「ストップ。……もう、いいですから」
あけすけに話す八坂さんを、苦笑いをこぼしながら止める。
そして、黙って八坂さんを見つめたあと、ふっと笑みを浮かべた。
「これから部屋にあげようとしてるのに、あまり怖がらせないでください。決心が揺らぎます」
そう言うと、八坂さんはわずかに驚いたような顔をするから、「言っておきますけど」と続けた。
「私だってなにもわかっていない子どもじゃありません。恋人を部屋に上げる意味くらい、わかってます。わかってますし……私だって、もう限界です」
はしたないことを言っているのはわかっていた。
恥ずかしさも当然あったけれど……それよりも、八坂さんへの想いが勝っていて止められない。
ずっと好きだったから……欲しかったから。
手が届く今、一瞬だってためらうことなんてできなかった。
「何年、好きだったと思うんですか。私だってずっと――」
言い切る前に、力強く一度抱き締められ、驚く間もなく手を引かれ部屋の前まで連れて行かれる。
「鍵」と急かされ、バッグの中から取り出すとすぐさま取り上げられ、八坂さんが荒っぽ仕草で鍵を開ける。
ドアが開いたのはたしかにこの目で見ていたのだけど……そこからは、なにがなんだかわからなかった。