クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
〝うわー、絶対怒られる……〟と一年生が心の声をそろえるなか、堂々と入ってきた八坂さんは、『すみません。遅れました』と、あんまり心の籠っていない声で言った。
それに対して、中年の男性教諭は『おまえは……また遅刻か。いくらバスケで満点な活躍してても、学業もしっかりしろよ』と、呆れたように言っただけだった。
もっと怒っていいのに。
その、なんだか腑に落ちない対応の理由を知ったのは、それから一ヶ月が経ったころ。
八坂さんが、入部早々からエース級の活躍を見せ、この高校をウィンターカップ準優勝まで連れていったすごい人なんだと、噂で知った。
八坂さんが入ってからバスケ部は勢いがつき、そのあとも好成績を残してるってことだから、先生があんな贔屓するのも仕方ないのかもしれない。
それに、強面だからそれも手伝ったんだとこっそり思っている。
八坂さんは眠そうに顔をしかめていただけなんだろうけれど、その気迫たるや、不良がガンつけてるのと同じだったから。
先生がビビっても当然だった。
四月末。部活紹介として、バスケ部はミニゲームを行い、そこで八坂さんがプレーするのを見たときは驚いた。
だって、バスケなんてほぼ未経験の私が見ても、八坂さんがすごいっていうのはすぐにわかるほどだったから。
流れるような動き。ゴールに吸い込まれるように落ちる、高く上がったシュート。楽しそうな笑顔。
それは、私の脳裏に色濃く焼きついた。
野球で、バッターがタイムリーを打ったあと塁上で見せる笑顔にそっくりの、満面の笑みだった。
それから、何回目かの委員会。放課後の見回りが一緒になったとき、初めて会話をした。
日は傾き、廊下の窓から西日が差しこんでいた。
『なぁ。俺、部活行きたいから、任せていい?』
廊下を歩き始めた途端、当たり前のようにされた提案。
たぶん、今までもそうして免除されてきたんだろうっていうのがわかるような態度に、いくら校内のスターとはいえ、正直いい気はしなかった。