クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~



「肉食獣に貪り尽くされた気分です……」

翌朝、ベッドから下りることもできずにそう呟くと、作ってくれた朝食をテーブルに並べていた八坂さんがバツが悪そうに笑う。

自覚はあるらしかった。

「まぁ、そこそこタガが外れた自覚ならある。だから言っただろ。煽るなって」

私だって誘ったんだし、今さら責める気もないけれど……身体に残る熱とダルさを考えると、これからは安易に誘うのはやめようと心に決める。

せっかくの土曜日が潰れてしまうなんて嫌だ。
のそのそとベッドから下りてテーブルの前に座ると、きれいなカタチをした卵焼きが湯気を立てていた。

その横には皮がパリッとしているタイプのウインナーと茹でたブロッコリーが並んでいる。

真ん中に置いた大皿には、すでに三枚のトーストが乱雑に置いてあるのに、さらに、キッチンでトースターがチンと音を立てる。

「……何枚食べる気ですか? 私、一枚が限界ですけど」
「おまえ、そんなだから風邪引くんだよ。朝食が基本だって習ったろ」

トースターから新たに一枚のパンを持ってきた八坂さんが「ほら、焼き立て」とそのまま私の口に押し付けてくるから、受け取り、ひと口食べる。

他のトーストもだけど、上にとろけるタイプのチーズが乗っていておいしい。

「うちのフライパン、ちゃんとした卵焼き焼けたんですね。いくら焼いても崩れるから、そういうタイプのフライパンかと思ってました」

ボリュームたっぷりの卵焼きを口に入れながら話す。

形はしっかりしているのに、口のなかに入れた途端、ほろほろと崩れる卵焼きは絶品で思わず「これ、おいしいですね」と驚いてしまった。

「四角いフライパン、なんて名前だか知ってるか?」
「いえ。名前なんてあるんですか?」
「ある。卵焼き用フライパン」
「え……そのままですね」
「卵焼くことだけに特化してんのに、それ使っても形にできないって相当だな」

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