クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


『お互い様ですから我慢してください』

却下されたことなんてなかったんだろう。

驚きから目を見開いた八坂さんは『お互い様? 部活入ってんの?』と不思議そうに聞いた。

『野球部マネージャーです。正直、甲子園出場をかけて県予選時期真っ最中の今、校内の風紀なんて気にしてる余裕はありません』
『野球部マネージャー……』
『それでも、グラウンドに走り出したい気持ちを抑えてこうして見回りしてるんですから、少し我慢してください。先輩でしょ』

相手は先輩だけど、私が言ってるのは正論だ。

だから、はっきりと言うと、八坂さんは面食らったような顔をしたあと、ふはっと笑った。

『まさか後輩にそんなハッキリ言われるとは思わなかった』
『後輩でも、いけないことは注意しますよ。〝先輩〟』

やれやれと思いながら言うと、八坂さんは『それが正しいな』と笑みを浮かべたあと、私を見た。

『でも俺、見てのとおり、あんま〝先輩〟って感じでもないし、名前で呼んでくれない? 先輩とか呼ばれるとムズムズして気持ちわりーし。……ああ、俺は八坂――』

『八坂穂積さんですよね。知ってます。部活紹介でのミニゲーム、すごかったので』
『ああ、見てたのか』
『テレビ以外で、人間があんなに高くジャンプするの初めて見ました』

感想を言った私に、八坂さんは嬉しそうにくしゃっと笑い『おう。サンキュ。で、おまえの名前は?』と言った。

それが、始まりだった。



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