クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
それから、顔を合わせると話すようになっていって、部活が終わる時間が合うと、一緒に帰るようになっていって……八坂さんが、私を〝めぐ〟と呼ぶようになった。
甲子園予選は思うような結果が残せず終わり、夏休みも終わったころ。
『俺、付き合うならおまえみたいなタイプがいい』と、八坂さんが言った。
暦の上では秋。でも、まだ体感的には夏といえるような季節。
部活帰り、駅に向かい歩いていた足はピタリと止まった。
あのときの雰囲気や、雨上がりの匂い、車の音。なにもかもを、まだ覚えている。
太陽はとっくに沈んでいたけれど、明るさだけはまだ空に残っていて、夜の色とまじりあっているなか、八坂さんはわずかに言いづらそうに後ろ頭をガシガシかいていた。
『いや、今日、昼休みどんな女がタイプかって話になって……でも俺、芸能界とかよく知らないから、どんなって言われてもよくわかんねーし。
誰かが持ってきてたグラビア雑誌広げて選べって言われたけど、どいつもしっくりこなかった』
言いにくそうにぶつぶつと言う八坂さんを、じっと見つめる。
車が一台、広くはない道を走っていった。
エコカーなのか、やたら静かなエンジン音が通り過ぎていく。
『ずっと考えてたけど、めぐの顔しか浮かばなかった』
目を伏せていた八坂さんが、首のうしろに触れていた手を下げる。そして、ゆっくりと視線を上げ、私と目を合わせる。
その全部が、スローモーションみたいに見えた。