クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
歓迎会は二十一時を回ったところでお開きとなった。
出席できたのは、半数ほどだけど、それでもだいぶ打ち解けられた気がするし、明日からの仕事を考えればよかったと思う。
営業課のメンバーも気さくな人が多くて楽しかったし、預金課の数人とも仕事の話をできたからよかった。
なかでも北岡さんは頭の回転も速く、出納機の操作にもかなり興味を持っているみたいだったから、覚えも早いかもしれない。
ただひとつ……明日からコーチする広田さんについては、周りから聞いた話から少し不安も残る。
とりあえず、今日の簡単な報告をメールにして上司のパソコンアドレスに送っていると、急に話しかけられた。
「めぐ」
場所は、居酒屋さんを出て駅の方へと少し歩いた公園内。
路上で立ち止まってメールを打つのも……と思い入った公園は、見渡す限り無人だったハズ。それなのに声をかけられ振り向くと、八坂さんの姿があった。
Yシャツの袖を捲り上げた腕にスーツをかけ、ネクタイは第二ボタンのあたりまで緩んでいる。
その姿を見て、高校のころの八坂さんが重なった。
「なに」
私が少し笑ってしまったことに気付いたんだろう。
片眉を上げ聞かれる。
「いえ。高校のころも制服をきちんと着てなかったっけなって思い出しただけです」
「あんなもん、窮屈なだけだろ。それに、今は客前はちゃんとしてるし問題ねーだろ」
苦笑いを浮かべた八坂さんに「帰り、電車ですか?」と聞くと、頷かれた。
「おまえは?」
「私も電車です」
「つーか、大変だよな。常に短期の出張繰り返してる感じだろ? 路線とか詳しくなりそう」
「それはたしかに。電車に苦手意識なくなりましたね」
スマホを鞄にしまいながら笑うと、八坂さんは少し間を空けたあと「高校んときは、たまに乗り間違えるくらい苦手だったのにな」と呟くように言った。
お互いに、過去の話をすると声のトーンが落ちてしまうのは、気まずさがあるからなのか。