クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「そりゃあ今もたまにはやってるけど、バカみたいにやってたのは大学までだな。
プロいけるほどじゃないのは自分でもわかってたし、就職もしなきゃだし。いつまでも遊んでいられねーなって切り替えた」
わずかに眉を寄せ黙っていると、八坂さんが「ほら、めぐも」と言い緩いパスを出してくるから、慌ててそれを受け取った。
少し空気が抜けているにしても、バスケのボールは固い。
「突き指でもしたらどうするんですか。明日から本格始動なのにケガなんかしたら上司に怒られます」
「悪い悪い」
全然反省なんてしていない笑顔を一睨みしてから、私も額のあたりまでボールを持ち上げてみる。
でも、どうにも届く自信がなかったから、そのままの体勢で数歩近づいてからゴールを狙う。
八坂さんが「めぐ、それトラベリングだから」と楽しそうに注意してくるけど、無視してボールを放った。
もちろん、入らずにリングにぶつかり落ちたけれど。
「グローブ磨きだったら勝てるのに」
「地味すぎるだろ。ホームラン対決とか言えよ」
呆れて笑う八坂さんに「身の程はわきまえてるつもりですから」と返し、てんてんと弾んで転がるボールを歩いて追いかける。
いくら野球部マネージャーをしていたからって、男女の力の差はある。
八坂さんみたいに何年もスポーツを真剣にやってきた男の人に、ストラックアウトもホームラン対決も敵う気はしない。
止まったボールに手を伸ばし拾いあげる。
それから、八坂さんの方を向き、ワンバウンドのパスを出した。
「〝遊び〟なんて言い方は、やめてください」
私のへろへろのパスを受け取った八坂さんがキョトンとする。
なにを言っているのかわかっていないみたいだから、続けた。