クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


「まぁでも、どうせどこ行ったって仕事なんか大変なもんって割り切ってるし、慣れればなんとでもなる。それなりにやりがいとかも出てくるし。
それでも、どうしても違うって思ったら転職考えればいいし」

八坂さんは、ベンチに置いてあった私の鞄を手渡すと、自分の鞄とスーツを手に取った。

「ありがとうございます」と言ってから、遅れて笑みがこぼれる。

「なに?」
「いえ。八坂さんらしいなって思っただけです。とりあえず、やってみてから考えればいいって、高校のときもそんな感じだったから」

高校時代、八坂さんのバスケ以外への熱は高くなかった。

それでも、テスト前の部活休みを使って勉強し、そこそこの成績を残してしまうんだから、要領がよく器用なんだろう。

そういえば、ホワイトデーにもらったマフィンが手作りだって聞かされたときにも驚いたっけ……と思い出す。
あのマフィンは、私が作るよりもずっとおいしかった。

鞄を肩にかけ歩き出すと、八坂さんも隣に並んだ。

公園から出た、細い路地。
人通りはあまりなかった。

「八坂さんは、なんでも器用にこなしてましたもんね。もちろん、そこには努力があるのは知ってますけど」

隣を見上げながら言うと、八坂さんの眉がわずかに寄る。

シュートフォームが綺麗だとか、今のプレイすごいだとか、そういう褒め言葉には嬉しそうに笑うくせに、影の努力はひけらかしたがらない。

『これ、作るの時間かかったんじゃないですか?』

マフィンをもらったときも、『別に。そうでもなかった』と詳しくは話さなかった。
そういうところも、今も変わらないんだなと思うと、自然と口の端が上がった。

「今はひとり暮らしですか? 自炊とかもちゃんとしてそう」

機嫌を損ねる前に話題を変えると、八坂さんは「おう」と頷いてから続ける。


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