クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


「私、モテるし彼氏だってきらしたことないんです。倉沢さんを好きになって振った元彼なんて、未だにヨリ戻してほしいってすごい言って来てて困るくらいなんですけど。とにかく、それくらいモテるんです」
「……はぁ」

相づちが、ため息みたいになってしまう。

「なのに、そんな私が欲しがってる倉沢さんだけが全然振り向いてくれないんだから、世の中うまくいきませんよね……はー……」

私とは違い、はっきりとしたため息を落とした井村さんは、ようやくフルーツジュースのバーコードを読み取り、「88円です」と言う。

もうとっくに手の中にあった百円玉を渡すと、井村さんはお釣りの十円玉と一円玉二枚を握りしめたまま止まってしまう。

「あの、お釣りください」
「お名前、教えてもらってもいいですか?」

私をじっと見ながら聞く井村さんに、お釣りをもらうために出した手のひらをそのままに「瀬名です」と答える。

井村さんは、お釣りを私の手に乗せてから、それを上からぎゅっと握りしめた。

なにかと思って視線を上げると、井村さんがすがるような目で私を見ていた。

よく、こういうシーンで、チワワだとかの小型犬に比喩されることがあるけれど……まさにアレだ。
断れない、性質の悪いヤツだ。

「瀬名さん、倉沢さんに私のこと売り込んでおいてくれませんか? こういうのって自分で言うよりも他人が勧めたほうが印象もいいですし! ね?」

きゅ~ん……と鳴き声なんだか、なんなのか、よくわからない幻聴が聞こえてくる気がして、ふるふると首を振る。

断りたい。
でも……井村さんを前に、〝嫌です〟なんて言える気がしなかった。

告白を断った倉沢さんには心がないんじゃないかと本気で思う。




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