クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


明日から関わるだけに軽く会釈を返すと、男の人は微笑みを残し、そのままコンビニから離れていく。
方向から見ると、支店に戻るんだろう。まだ十七時だし。この金融機関の定時は十七時半って聞いている。

告白されたばかりだっていうのに、知らない私にまで悠々と微笑むのだから、相当場慣れしているのかもしれないなと思う。

金融機関なんて、真面目な人が集まっているように思っていたけれど、そうでもないらしい。
あの人は、私が二十四年間過ごして会ってきた人のなかでも、相当チャラついていた方だった。

そんな感想を持ちながら、飲み終わったグレープフルーツジュースのパックをゴミ箱に捨て、私もコンビニを離れる。
明日から、二週間派遣される三階建ての建物をもう一度眺めてから、帰路についた。


〝出納機〟というのは、早い話が、金融機関の職員が使うATMのようなものだ。

店頭にきた顧客が依頼した入出金、営業が顧客から頼まれた入出金など、支店内で動く現金、すべてを出納機で管理している。

逆にいえば、出納機を通さないで現金が入出金されることはない。

その出納機を扱っているのが私の勤める会社、『B・system』で、私の仕事はと言えば、色々種類のある出納機の扱い方を覚えること、そして、それを搬入した金融機関の職員に教えることだ。

期間は、だいたい二週間ほど。その間、派遣された金融機関で朝から晩まで、扱い方を教える。
派遣先は、だいたい県内。関東圏内であれば、たまに出張することもある。

今回の派遣先は、運よく会社から六駅しか離れていない。
私がひとり暮らししているアパートからは、三駅と、逆に派遣先のほうが近いくらいだ。

駅からほど近い支店には、八時半に着いた。
昨日も眺めた三階建ての建物を見上げてから、肩につくかつかないかぐらいの髪先に手で触れた。


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