クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
北岡さんは「あ、じゃあ……」と何か思いついたように私を見る。
「窓口の仕事が終わったら、私に教えてもらってもいいですか? こういう機械操作覚えるの好きなんです」
「それはもちろん……でも、大丈夫ですか? 一応、広田さんが担当なのに……」
北岡さんのほうが詳しくなってしまったら、広田さんが機嫌を損ねたりしないだろうか。
今日接した感じだと気難しそうだし……と思い確認すると、北岡さんはにこりと笑う。
「そのへんは、うまいことやりますから。まぁ、なんだかんだ言いながら広田さんは覚えきるとは思いますけどね。
念のため私が覚えておいても無駄ではないですし」
「……信頼してるんですね。広田さんのこと」
まだコーチ一日目だって言うのに、今から『覚えきるとは思う』なんて言えるのは、そういうことだ。
「私、広田さんとは仕事して四年目になるんですけど、あの人、仕事には真面目ですからねぇ。定時帰りを責める声ももちろんありますけど、それだけ毎日きっちり時間内に自分の仕事をこなしてるってことですし」
北岡さんは、ニヤリと口の端を上げて、私に顔を寄せた。
「そのへんで文句やらなにやら言いながら、まだ仕事残してる子たちよりは、よっぽど優秀ですよ。仕事の上では」
小声で言われ、オフィスを見渡す。
仕事を残しているらしいのに、楽しそうに話に花を咲かせている女性職員を見てから「……なるほど」と呟いた。
「まぁ、そんなだから、性格で損してるんですよ。あの人は。……さて。じゃあ私、課長に出納教わっていいか許可もらってきますね。何時までなら大丈夫ですか?」
時計を見ながら聞かれ「じゃあ、今から四十分ってことでいいですか?」と提案すると「了解です」と笑顔が返される。
金融業は、細かい作業が多いからか、内部事務は女性職員が多い。
女性が集まると、色々面倒事があるんだな……と学生の頃の教室を思い出し、苦笑いを浮かべた。