クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


ただ、広田さんの私に対する態度は、はたから見たら高圧的に映るようで、たまに他の職員さんに心配して声をかけられてしまう。

そのたびに言っている〝気にしてませんから〟っていう返事は、我慢しているという風に捕えられてしまうようで、可哀想に……って目をされるのが困りものだ。

「ふぅん。大体はわかったわ」
「よかった。広田さんは理解が早いので助かります」

本音なのに、広田さんはなぜか表情を険しくした。

なにか失礼な発言でもあっただろうか……と考えていると「そういうお世辞は、別にいい」とボソッと言われてしまった。

「お世辞ってつもりは……」
「手、荒れてる。ケアくらいしたら?」

指摘され見ると、たしかに手は荒れていた。

でも、機械や紙幣、硬貨を一日中触っていたら、こうもなる。
ハンドソープを使って手を洗う回数だって多いし。

「ああ、荒れやすいんです。ハンドクリーム塗ってても、おいつかなくて」
「安いの使ってるからじゃないの」

ぴしゃりと言われ、思わず黙りながら視線を移すと、広田さんの手が視界に入った。

毎日、紙幣や硬貨、書類を触っているっていうのに、あまりに綺麗だから見とれてしまいそうになる。

そういえば、広田さんのデスクの上には、ドラックストアで見かけないパッケージのハンドクリームが置いてあったっけ……と考えていると「じゃ、お疲れ様」と言われる。

隣を見れば、手をひらひらと振る広田さんの後ろ姿があった。
時計を確認すると、十七時四十三分。

残業時間、十三分。今日も見事な定時上がりといえそうだ。

まぁでも、呑み込みが早いおかげで、進捗状況は悪くない。

ただ、出納機のなかのお金をすべて入れ替える、精査作業だけは業務後に教えたいんだけどなぁ……と考えていると、「瀬名さん」と吉川課長に名前を呼ばれた。

「はい」

吉川課長は、隣に立ちながら困り顔で言う。


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