クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「広田へのコーチはどうですかね」
「問題ありません。要領がいいので、すぐに理解してくれますし」
「でも、本来であれば広田ひとりに教えればいいものを、北岡とふたりぶんってなると大変でしょう。先週もずっと残業してもらってるし」
申し訳なさそうに言われ、笑顔で答える。
「いえ。私も、ふたりに教えておいたほうが安心なので」
「そう言っていただけると助かります。……本当なら、広田が北岡と一緒に残業してくれればいいんですけど……広田はどうも聞かなくて。仕事を時間内で片付けて定時帰りを社内で当たり前にするべきだって」
困った顔で言うけれど、それはその通りなんじゃないかなと思う。
みんなが当たり前のように残業しているのはおかしいし、定時であがる習慣を作ろうとしているのは悪いことには思えない。
定時を過ぎても、仕事もしないで話に花を咲かせているような人よりはよっぽどいい。
それなのに、やり玉にあげられてしまうのは……やっかみなのかな。
「仕事ができすぎるんですかね。広田さん」
そうもらすと、吉川課長が言いづらそうに微笑む。
「手が速くて、出納の仕事も彼女に任せてから締めにかかる時間がグッと縮んだんですよ。なにを任せても、誰よりも早く作業ができる。
なのにそのせいで少し浮いてしまってる部分はあるようで……女性の関係は難しいですね。広田がもう少し友好的な性格だったら、まだよかったのかもしれません」
ほとほと困った様子で笑みを浮かべる吉川課長が、無意識になのか、片手でお腹をさする。
胃でも痛いのかもしれない。