クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


仕事が終わり、北岡さんから誘われた飲み会をやんわりと断り、支店を出ようとすると、給湯室から声がもれてきた。
時間は十八時半。定時を一時間過ぎたところだった。

「ありえなくない? 普通、自分の仕事が終わったら、他の人手伝うよね。それを、毎日定時上がりって……本当、性格疑う」
「ねー。役員の娘だからっていっつも態度デカいし」

聞こえてくる話から、預金課の女性職員だとわかり、ため息を落とす。

さっき出納機のコーチをしているとき、北岡さんと少し話した。

『預金課の方は、広田さん以外、みなさん残業が当たり前なんですか?』
『いえ。私も結構定時ですよ。他の女性職員は……まぁ、残業続きですね。仕事が終わらないみたいで』
『仕事量に差があるんですか?』
『うーん……。正直、ずいぶん少ない仕事量しか与えられてないハズなんですけどねー。広田さんが彼女たちがしている作業を担当してたときには、お店が閉まって一時間後には終わってたんですよ。今は、その倍時間がかかってて……まぁ、仕事が丁寧とでも言っておきますけどね』

広田さんや北岡さんよりも少ない仕事量なのに、残業しないと終わらないのは、こうして話している時間が多いっていうのも理由のひとつだろう。
通りかかるたびに、話している気がする。

北岡さんも、ああ話すってことは、女性職員が仕事が終わらない原因はわかっている。
その上で、うまくやっているんだからすごい。

私だったらキレてしまいそうだ。

一応、彼女たちにも〝お先に失礼します〟と挨拶だけして支店を出て、ほど近いコンビニに向かう。

駅からそう距離がないせいか、それとも時間帯でなのか、人通りの多いなか着いたコンビニ。
支払いを済ませ、パックのグレープフルーツジュースを持って外に出る。

そして、端に避けたところでストローを指すと「お疲れ。瀬名ちゃん」と突然、隣から話しかけられた。
見れば、知っている顔が笑いかけてきた。

呼ばれなれない呼び名に、一瞬ためらってから返す。
馴れ馴れしいなとは思うけれど、私がここにいるのは二週間だけだし、注意するほどではない。


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