クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「お疲れ様です。……倉沢さんは、もう終わりですか?」
営業の島には、まだほとんどの人が残っていた気がするけれど……と思いながら聞くと、倉沢さんは吸っていた煙草の灰を、携帯灰皿に落としながら頷く。
その仕草は、まるでドラマのなかから切り取ってきたみたいに決まっていて、相変わらず美形だな……と思った。
視線を集める、花のある美形だ。
「うん。先輩方はまだ残ってたけどね。俺は終わったし、先に上がらせてもらった」
「先輩方……そういえば、営業のなかでは倉沢さんが一番若手なんでしたっけ」
「そ。大学ダブっちゃったからね。でも年齢的には八坂さんと一緒だし、瀬名ちゃんよりは年上だけどねー」
「私は短大卒業して働き出したので、もしも同じ会社だったら私のほうが先輩ですけどね」
この金融機関は、大卒でしかとらないって話を、職員さんから昼休みに聞いたばかりだ。
〝年下〟と、その言葉を強調してニヤニヤするもんだから、つい言い返すと、倉沢さんは面食らったみたいな顔で黙った。
言い返されるとは思っていなかったらしい。
「すみません。負けず嫌いなんです」
説明すると、意外そうに眉を曲げた倉沢さんが「え。全然見えないのに」と言う。
「そんな大人しそうな顔して負けず嫌いなの?」
「よく言われます。挑発されるとすぐ乗っちゃうんです」
「へぇ……なんか、意外」
「つっかかるにしても、相手見てからつっかかれって、よく言われてました」
『おまえ……なんであんなヤツに勝てると思うんだよ』
『思ってません。でも、あんな風に言われて、ただ黙ってもいられませんし』
『……見てたヤツの話聞いた。すげーひどい言われようだったって言ってたし、頭にくるのもわかるけど……そういうのは、俺がなんとかするから、おまえはひとりで立ち向かっていくなよ。めぐが、数人相手にケンカ始めたって聞いたとき、すげー怖かった……』
はぁー……と深いため息をついて片手で顔を覆った八坂さんと、そんな会話をしたのは、高校のころ。
付き合って、まだ間もないときだ。