クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


八坂さんを好きだっていう先輩がいて、私はその先輩に呼び出された。

校舎裏に行くと、そこにはその先輩のほかにも、女の先輩が数人いて……そこで、罵詈雑言を浴びせられた。

〝鏡をよく見てから付き合う男を選べ〟
〝笑い者にされてるのもわからないなんて、可哀想な女〟
〝八坂くんにも遊ばれてるだけ。あんたみたいな女を本気で好きになるわけがない〟

そんなことを次々に言われた。

『数人で固まって暴言浴びせて別れを強要するような卑怯な人も、八坂さんは好きにはなりませんよ。それに、八坂さんはいい加減な気持ちで誰かの気持ちを弄ぶような人じゃない。侮辱しないでください』

一通り、いろんなことを言われたあとで言うと、先輩たちはカッと怒りを顔に浮かべ手を振り上げた。

そのまま引っぱたかれたあと、私も一発やりかえして取っ組み合いになろうとしたところで、八坂さんが止めに入り、そのあと言われた言葉がそれだ。

さっき、オフィスを出ようとしたとき、女性職員が広田さんをやり玉にあげてキャッキャしているのを見てしまったからか、面白くないことを思い出してしまった。

まったく女はまとまると性質が悪いな……と自分を棚にあげてため息を落とすと、倉沢さんの視線に気付いた。

じっと見つめられ眉を寄せると、「よく言われるって、彼氏に?」と聞かれるから、眉間のシワが深くなる。

「それだけとは限りません」
「否定はしないんだ。ところで、それ買うだけのためにコンビニに寄ったの?」

観察するような眼差しが、心地悪い。
この五日間、あまり話す機会がなかったけど……倉沢さんは、他人をよく見るひとだ。

人当たりはこれでもかってほど軽いのに、洞察力は鋭いとか、面倒だ。

「いえ。待ち合わせです」

目を逸らしながら言うと、すぐさま「誰と?」と聞かれる。
誤魔化す必要もないから「八坂さんと」と答えると、驚いたように目を見開かれた。



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