クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
いつも通り六時に起き、寝癖のつきやすい猫っ毛をしっかりとブローしたし、慣れないメイクも軽くした。
二重のまぶたにアイラインを引き、まつ毛にマスカラも塗ったし、あまり好きじゃないんだけど、と少し迷ってから、唇も色づけた。
〝ヌーディ―ピンク〟という色は、見た目にはそこまで主張しない。それでも薬用リップクリーム以外のものが唇を覆っているのは違和感が残っていた。
いつもはファンデーションくらいしかしないメイクだけど、派遣先ではきちんとするようにっていうのは上司から言われているから、仕方ない。
カバンから出した手鏡で髪や顔に問題がないかを確認してから、裏口に回りインターホンを鳴らした。
『はい』という男の人の声が聞こえて、会社名と名前を告げる。
今日から派遣されるということが知らされていたのか、インターホンの向こうからは『ああ、はい。今開けます』と返事をされた。
この支店にいる職員の人数は二十一人。
一階が預金課で、二階が融資課という説明を受けている。三階はたぶん、職員用の食堂、更衣室という造りなんだろう。
出納機が置いてあるのは、一階って話だったっけ……と、事前にされた説明を思い出していると、ガチャリと音がし、重たそうなドアが開いた。
「あ、『B・system』の瀬名めぐみといいます。本日から二週間、こちらでお世話に――」
パッと顔を上げて自己紹介をしようとして……言葉が止まった。
だって……中から、今にも欠伸でもしそうなほど、気だるそうに出てきたその人には、見覚えがあったから。
……ううん。〝見覚え〟どころじゃない。
よく知っているし、会わなくなってからも何百回って頭のなかで思い出している。
昨日だってコンビニで……と、考えていたところで、ダルそうに欠伸をかみ潰したその人が私と目を合わせる。
そして、それまで浮かべていた気だるさを一変させ、顔中に驚きを広げた。