クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


「八坂さんと?」
「はい。さっき帰ろうとしたら、自分ももう仕事が終わるからコンビニで待ってろって一方的に言われたので」
「へぇ……ああ、でもそっか。同じ高校で、仲もそれなりによかったって話だもんね」

ふたりの関係を、私は説明していないし、八坂さんもベラベラ話すタイプじゃない。

たぶん、北岡さんだとか、歓迎会のときにいたメンバーから聞いたんだろう。

「社内の様子見てても思ってたけど、ただの先輩後輩って感じでもないよね。八坂さん、瀬名ちゃんのこと名前で呼んでるし」
「運動部なんてそんなものですよ」

適当に交わしながら、そういえば……とコンビニの店内に井村さんの姿がなかったことを思い出す。
今日はお休みなのかもしれない。

「倉沢さんが振った店員さん、今日はお休みなんですかね」

名前を売っておいてほしいってことだったし、話題を逸らすにも丁度いいと思い言うと、倉沢さんは驚いた顔で私を見た。

「え、見てたの……?」
「はい。たまたま居合わせてしまって」

「うわー……見られてたのかー」と片手で顔を覆いぶつぶつ言う倉沢さんに「あんなひどい振り方、初めて見ました。逆恨みされたりしませんか?」と聞く。

顔を上げた倉沢さんは、キョトンとしたあと、へらっと笑った。

「んー、まぁ、それなりになら」
「……そうですか」

別れ話のもつれからナイフで刺された、なんてニュースも珍しくない。
だから真面目に聞いたのに、返ってきたものがあまりに軽かったから呆れて言う。

私が呆れたことに気付いたのか、倉沢さんは「だーってさー」と口を尖らせた。




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