クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「それ、噛むのってクセ?」
「え……ああ」
突然指摘されて、なにかと思うと、倉沢さんは私の持っているパックジュースのストローを見ていた。
本来、まんまるいハズのストローの先は、楕円形になっている。
私が噛んだから。
「昔は、普通に飲めてたんですけど、気付いたら噛むクセがついちゃってて。意識してるんですけど、たまに無意識になると噛んじゃうんです。軽くですけど」
少なくとも、高校のころまでは普通にまんまるいまま使えていたのにな、と思いながら言うと、倉沢さんは「ふぅん」と返事をした。
そして、また少し黙ったあと口を開く。
「さっきの、恋愛感情なくても、いつでもどこでもチャンスさえあれば~ってヤツ。もし、言ったのが俺じゃなくて八坂さんだったら怒ったの?」
ギクリとしたのは、倉沢さんの探るような瞳にだった。
なんで、八坂さんの名前を出してきたんだろう、と考え、不安になる。
……付き合っていたのがバレたんだろうか。
「いえ。同じ対応です」
バレているんだかどうなのかが分からない。
だからそれだけ言うと、倉沢さんは「ふぅん」となにかを含んだような声で言ってから続けた。
「八坂さんが誰かにあんな風に構うのって初めて見たから。瀬名ちゃんは特別なのかなって思ってさ」
倉沢さんは、ギュッと、煙草の先を携帯灰皿のなかに押し込み火を消す。
私から視線が外れたことに少しほっとし、肩の力を抜いた。
この人と話すのは疲れる。
なんだか、ずっと気持ちやら頭のなかやらを見透かそうとされているみたいで嫌だ。
話題があちこちに飛んだあと、八坂さんの話に戻ってくるのも、不意打ちをくらってるみたいでいちいちビックリするからやめて欲しい。
……わざとかな。