クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
営業職も大変だなと思う。
ただ、セールスをかければいいだけじゃなくて、そういう家庭内の不満の聞き役にもならなきゃいけないなんて。
愚痴や不満なんて聞いてるだけでも疲れそうだ。
倉沢さんは、人当たりがいいから、色々と話しやすいんだろう。
それに、相手が顧客ってなれば、無碍にもできない。つらい仕事だ。
しかし。
社長夫人との会話ってどんなんだろう。
「おまえ、出張ホストだとでも思われてんじゃねーの」と、ため息をつくみたいに言った八坂さんが、「まぁ、いい」と話題を変える。
「めぐ、腹減ってるだろ? そこの和食屋でいいか?」
「あ、はい。和食好きです」
「じゃあ、行くか」という八坂さんのうしろに続くと、倉沢さんが「あ、俺も俺も」と明るく言う。
私は正直どちらでも構わない。
むしろ、ふたりきりになるよりは三人のほうがいいかも。
でも、倉沢さんの前で八坂さんと仲良く昔話なんてしたら、また変な探りをかけられちゃうかもしれないし、それは嫌だ。
誘ってきたのは八坂さんだし、判断は八坂さんに任せよう。
そう思い見ていると、八坂さんは明らかに嫌そうな顔をして倉沢さんを振り返った
「は? 遠慮しろよ。こっちは高校以来の再会で積もる話もあるんだから。おまえがいると邪魔」
いくら同じ職場で仲がよくても、気を遣ったりってことはありそうなのに。
八坂さんの倉沢さんへの態度を見ていると、大丈夫かなと心配になってしまう。
でも、そんな扱いを受けても「えー」とぶーぶー言っている倉沢さんを見ると、普段からこのふたりはそうなんだろう。
「倉沢さん、お疲れ様でした。また明日よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げてから、先に歩き出していた八坂さんの背中を追った。