クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
八坂さんが案内してくれたのは、和食のチェーン店。店内は混み合っていたけれど、運よく個室に入ることができた。
それぞれ、定食を頼み、それを食べながら仕事の話をした。
再会するまでの七年間で、八坂さんは大学を卒業し社会人三年目。私は、高校、短大を卒業し、社会人になり四年目。
仕事の話題なら、何時間でも話せるだけの持ちネタがあった。
なかでも、八坂さんが支店に配属されて一日目に起こした事件はひどかった。
入社し、新人研修を終えて支店に配属された日。
応接室に通され、お茶を出されたからそれに手を伸ばすと、それを見た支店長が『目上の人間よりも先に飲むなんておかしいんじゃないか』と注意した。
一度は、素直に謝った八坂さんだったけれど、そのあともあまりにネチネチと注意され続けるものだから、頭にきて『わかったって謝ってる相手に、そこまで繰り返し言う必要ってあるんですかね』と静かにキレたらしい。
もちろん、上司、しかも支店長相手に許される口ごたえじゃない。
それ以降、目の敵にされ、扉の締め方が悪いだの、歩き方が偉そうだだのと注意をされ続けた……という話をして、最後に八坂さんは笑った。
「でも、そいつ、俺が問題起こす前から職員みんなにネチネチしてたもんだから、コンプライアンス室に苦情が殺到してたらしくてさ。俺が配属されて一ヶ月も経たねーうちに、本部に異動になってた。本部の事務集中課だから、明らかな左遷だな」
本部、なんて聞くと出世にも聞こえるけれど、この会社の場合は必ずともそうではないらしい。
支店で人付き合いがうまくできない、職員との衝突が極めて高い……という、コミュニケーションがうまくとれない人が集められる部署がいくつかあり、事務集中課もそのひとつということだった。