クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「支店長にまで昇りつめたあと、そういう部署に異動ってなると周りからの視線もツラそうですね」
「だろうな。まぁ、もう定年退職したんじゃねーの。俺が配属されたときにもう歳っぽかったし」
八坂さんが口に運ぶのは、ビール。
注文するときに『一杯だけいい?』と聞かれて『私に断ることじゃないので、いくらでもどうぞ』と答えると、八坂さんは『じゃあ、一杯だけな』と中ジョッキを注文した。
歓迎会で、結構飲んでいたのに平気そうにしていたから、お酒は強いんだろう。
まぁ、そんなにガブガブ飲むのもどうかと思うし、本人が一杯でいいって言うならなにも言わないでおく。
「でも、ダメですよ。いくら頭にきたからって、そんな真正面から刃向っちゃ」
ウーロン茶を飲みながら言うと、八坂さんは困り顔で笑った。
「わかってる。あのときはちょっと気が立ってたんだよ。もうしない」
素直に反省の言葉を口にする姿を見て、ああ、変わらないんだな……と苦しくなった。
八坂さんは、気が強いしカッとしやすいから、ケンカ沙汰になることも珍しくはなかった。
私とも何度もケンカした。付き合った一年半でしたケンカは、小さなものも数えれば数十回に上る。
でも、落ち着けば素直に謝罪できる。
そういう素直な部分が、すごく好きだった。
「変わらないですね。そういうところ」
無意識に、ぽろっとこぼれた言葉に、八坂さんはゆっくりと視線をあげ、私を見て……それから、ふっと表情をほころばせる。
「めぐは? 相変わらず、優等生な負けず嫌いか?」
「……どうですかね」