クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「……めぐ?」
信じられないとでも言いたそうに問われ、ハッとする。
それから、精一杯の冷静さを意識してうなづいた。
「はい。……お久しぶりです。八坂さん」
にこり、と微笑んだつもりだったけれど、八坂さんは驚いて固まったままだった。
こうした短い派遣を何度も繰り返していると、派遣先で軽い歓迎会を開いてもらうことがある。
割合からして、三割くらい。
誘われると断るのも申し訳ないから参加させてもらっているけれど、今回の派遣先は、その三割に入るようだった。
支店からほど近い居酒屋には、大きな座敷の個室があり、着いてまだ十五分も経たないのに、テーブルには次々に料理が運ばれていた。
から揚げに焼き鳥に、酢豚……とやけに肉料理が多いのを見て、笑みをこぼした。
「相変わらずですね。これ、八坂さんが頼んだものでしょ」
隣に座る八坂さんを見て言う。
「どこに食べに出かけても、お肉ばっかり食べさせられたのが懐かしいです」
高校の頃から、八坂さんはそうだった。
バスケ部っていう、スタミナ勝負の部活に入っていたせいもあるんだろう。
でも、未だにそうだなんて……と呆れて言うと、八坂さんは「だって、肉食わないと始まんねーだろ」とカラッと笑う。
身長は180センチ近く、ガッシリとしたスポーツマン体型。
そんな大きな図体からは想像もつかないような無邪気な笑顔は、高校の頃から変わっていなくて、胸の奥が温かくなるのを感じた。
同時に、すぐにでも取り出せる位置にずっとある恋心が、切なく鳴いた。