クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
いくら自分が正しいと思っても、それを突き通そうとするようなこともなくなった。
さっき、倉沢さんの発言をスルーしたいみたいに。
でもたぶん、全部をそうできない。
「自分が正しいと思ったことは、自分だけが守れていればいいんだっていうのはわかってるんです。ただ……周りの人はスルーできても、身近になっちゃうと一緒に守ってほしくなっちゃうだけです」
あの頃、八坂さんにカッカしていたのは、八坂さんが誰よりも近くにいたからだ。
私にとって、気の置けない人だったから。
だから、後輩に対する横暴な態度とか、赤信号なのに渡っちゃおうとするところとかが気になって口が出たりした。
そのたび、八坂さんは面倒くさそうに顔を歪めてケンカになったのが懐かしい。
「別に、自分の思う通りにしたいっていうわけじゃないんです。でも、どうしても見逃せなくて……困ったクセです」
目を伏せ言う。
八坂さんには嫌な思いをたくさんさせてしまったハズだ。
それが別れの直接的原因になったかはわからない。
でも、あんなのは私のエゴだし、いい気持ちはしなかっただろう。
そう思い、きちんと謝ろうとしたとき、八坂さんが言った。
「あのころは、俺もガキだったから素直には聞かなかったけど。おまえが言ってたことは、なにひとつ間違ってなかった。教師のこと呼び捨てしたり、後輩だからってないがしろにしたり、今思えば全部俺が間違ってた」
部屋の外からは、それぞれの席から賑やかな声が聞こえてくる。
真面目な瞳を見つめ返してから、眉を寄せ微笑んだ。
「すみません。昔のことを謝らせるつもりなんてなかったのに、こんな話になっちゃって。そろそろ出ましょうか」
料理がのっていたお皿はとっくに空っぽだし、時間ももう二十一時を回ろうとしている。
明日も仕事だし、そろそろ頃合いだ。
そう思い立ち上がると、八坂さんはわずかに間を空けてから、「おう」と立ち上がった。