クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
思考回路は、どこかで繋がるのを放棄してしまったのか、その答えをいつまでも見つけ出そうとしなかった。
ひたすらとグルグルとふたつの答えが回り、困り果て視線を下げたとき。
倉沢さんが言っていた言葉がポン、と脳裏に浮かんだ。
『八坂さんってさ、なにかにつけて特定の誰かと比べてるような言い方するんだよ。八坂さんのなかには特定の誰かがいて、その子が〝普通〟なんだろうね。だから、誰を見るにも、その子と比べてる感じ』
『まぁ、八坂さん、表情おっかないけど美形っていえばそうだしね。彼女いたっておかしくないけど。彼女も、瀬名ちゃんの言うように、懐けば可愛いって思ってるのかもね』
――八坂さんには、特別な誰かが、いる。
倉沢さんの軽いトーンで流れた台詞に、スッと緊張が解けていくのを感じた。
ドキドキとひたすら鳴っていた胸も、速度が戻って行く。
……そうだ。八坂さんには彼女がいる。
この問いに、意味なんてない。今日だって、ただ懐かしくて昔話がしたくなったから誘ってくれただけだ。
カチリと音を立て繋がった思考回路。
ゆっくりと視線を上げ、私を見ている八坂さんを見つめ返した。
「いたとして、なんですか?」
強い意志を持って言うと、八坂さんの瞳が驚きを映す。
「いなかったとして、どうにもならないでしょ?」
「どうにもならないって……」
「私、高校のころからずっと、番号もアドレスも変わってません。でも……八坂さんから連絡がきたことは一度もなかった」
別れようって言われてから、一度も連絡はなかった。
『俺らって、付き合ってる意味あるのか?』
そう聞かれたとき。
八坂さんは、私が続けようとした言葉を聞かないまま、関係を切った。
〝私は別れたくない〟
伝えたかったのに、伝えられなかった言葉は、今も胸の奥で泣いたまま。
あの日。別れた夜。
どうしてもそれを伝えたくてかけた……必死の思いでかけた電話に、八坂さんは出なかった。
何日経っても、折り返しもなかった。
それが……すべてだ。