クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
昔は短髪だった黒髪は、今はそこそこ伸びて、形のいい眉にかかる長さで揺れている。
てっぺんにあるつむじから素直に下ろされた髪は、段がつけられ、一番長い部分は耳を半分ほど隠す長さ。
テレビに映るアイドルなんかがしていてもおかしくない髪型だっていうのに、柔らかさを感じないのは、目つきの問題だろうか。
顔立ち自体は整っていて美形のうちに入るのに、相変わらず強面だ。
銀行にいたら、社員というより強盗に間違われそうだなと思う。
「それにしても久しぶりだよなぁ。七年ぶりか?」
「八坂さんが卒業してから会ってないから、そうですね」
「甲子園、残念だったな。俺、テレビで見てた」
ビールを飲みながら言われた言葉に驚く。
それから、ふっと笑みをこぼし「そうですね」とだけ言って、私もビールに口をつけた。
高校時代、八坂さんがバスケに必死になっていたのと同じで、私も硬式野球部のマネージャーとして汗を流す毎日を送っていた。
うちの高校は、強くはないけど、弱くもない。五年に一度くらいは、春か夏、甲子園に出場を果たしている。
私がいた頃は、一試合相手を抑えきれる絶対的エースがいたから、実力はもちろんのこと、運もよく甲子園の土を踏むことができた。
うちの部員は、全員、これ以上ないほど一生懸命だった。エラーだってなかったし、ファインプレーだっていくつもあった。
それでも、一回戦で負けてしまったのは、相手を褒めるほかない。
当時は、唇をかみしめてもこらえられなかった涙が落ちたけれど、今となってはいい思い出だ。
甲子園に出場したのは、八坂さんが卒業した翌年。私が三年生の夏だった。
「泣いてるめぐ、初めて見た」
身体を支えるように片手をうしろについた八坂さんが、目を伏せ言う。
わずかに弧を描いている口元を見ながら、眉を寄せ笑った。