クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~


「テレビに映ってたらしいですね。夏休み明け、友達みんなに言われました。
高校球児の青春のつまった男泣きよりも女子マネージャーの涙を優先したそのカメラマン、今でも許してません」

「男の涙なんて綺麗なもんでもねーし、当たり前だろ」
「男泣きの方がよっぽど綺麗です」
「んなわけあるか」

本当にそう思っているのか、呆れて笑う横顔をチラッと見る。

「八坂さんは……泣かなかったんですか? 最後の試合のあと」

わずかに言葉を詰まらせながら聞くと、八坂さんはバカバカしいとでも言いたそうに、笑いを吐き出した。

「まさか。周りで泣いてるヤツはいたけどな。全力出し切っての結果なんだから、受け入れるしかねーだろ」
「でも、悔しかったでしょ?」
「……まぁ、悔しかったけど。その日からしばらく抜け殻だったし」

ばつが悪そうに白状する横顔に、心臓がぎゅっと掴まれたように苦しくなる。

八坂さんが、きっと悔しくて悔しくて仕方がなかったとき。私は……八坂さんよりも、野球部を優先させたから。

『最後の試合、見にくれば』

そう、言いづらそうに誘ってくれたのに。

『すみません……。その日は野球部の練習があるんです』

私は、いつも通り、野球部を優先させた。

それは、部活をしている以上、仕方のないことだと思う。
もし、あのときに戻れるとして同じことを聞かれても、私は同じようにしか答えないだろう。

部活をサボって観戦には行けない。
それでも、八坂さんの最後の試合観戦を断ってしまったことは、罪悪感や後悔と似たような感情にくるまれ、私の記憶のなかに残り続けていた。


< 8 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop