クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
仕事で忙しいご主人に代わって奥様が書類のやりとりをするのは、どこのお宅でも普通のこと。
寺田さんのおうちも、奥様が倉沢さんとやりとりをしていたらしいんだけど……どうやら、そのふたりの関係に、ご主人があらぬ疑いをかけてご立腹らしかった。
倉沢さんは、恋愛観こそズレているものの、公私は弁えている。
仕事で関わった相手とどうこうなることはないし、そこは唯一、褒められるって八坂さんが言っていたから、実際そうなんだろう。
倉沢さんの営業スタイルは、一線を超えてるわけじゃない。
でも、ご主人からしたら、若い営業マンと奥様が仲良く話していたりしたら……もっと言えば、奥様が営業マンに熱をあげていたりしたら、気に入らないのももっともだった。
倉沢さんは人当たりが柔らかいし、人懐こい。その上、女性受けしそうな甘い美形だ。
年齢問わず、奥様方に人気があるのは、簡単に想像できた。
いつか八坂さんが、お昼ご飯を買いにスーパーに行くと、倉沢さんが必ずどこかの奥様に声をかけられてるって言っていたけれど、相当可愛がられてるってことなんだろう。
今回の寺田さんの件も、たまたま夫婦で買い物中に、奥様が倉沢さんを見つけ、ご主人そっちのけで倉沢さんと楽しそうに話していたのが気に障ってのことらしい。
倉沢さんではなく、上司である課長を指名して電話をかけてきたご主人は、相当怒っているのかもしれない。
しゅん……と聞こえそうなほど落ち込んでいる倉沢さんに、営業課長は申し訳なさそうに眉を寄せ、後ろ頭をかく。