クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「いや……まぁ、話しかけてきた奥さんを無視することもできないし、仕方ないことは仕方ないんだ。冷たくしろって言ってるわけでもない。
寺田さんも、夫婦間でなにかあって、倉沢に八つ当たりしているだけかもしれないし。でも……まぁ、なんだ。あんまりその気にさせるような態度はよせって話だ」
課長も、倉沢さんが悪いとも思っていないんだろう。
どちらかといえば、相手の虫の居所が悪いせいでとばっちりを受けたというか、そんな感じにとっているようだった。
でも、クレームが入った以上、注意しないわけにもいかないからって感じで。
正直、私が倉沢さんの立場だったら、ショックを受けるだろうなと思う。
今まで必死に愛想笑い振りまいて、仕事以外のときに話しかけられてもヘラヘラ笑って付き合って頑張ってきたのに、それを否定されるようなことを言われてしまったらショックだ。
見るからに落ち込んでいる倉沢さんが、煙草でも吸いにいくのかフラフラとフロアを出て行こうとするから、思わず「大丈夫ですか?」と声をかける。
倉沢さんは視界に私を映すと、はぁ……と重たそうなため息を落として口を尖らせた。
「もう、最悪。頑張ってんのに全然むくわれないし。ただ、顧客相手に当然のことしてきただけなのに、寺田さんのご主人にあとで頭下げにいかなきゃならないし。
大体、寺田さんがご主人に冷たいのなんて、俺のせいじゃないのに完全に八つ当たりだし。はぁ……俺の顔がいいせいで最悪」
「はぁ」
ずいぶん溜まってたらしい。
そんな落ち込んだトーンで『俺の顔がいいせいで』なんてナルシスト発言されても反応に困るな……と思っていると、倉沢さんがポツリと言う。