クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「瀬名さん、グラス空いてますね。なにか頼みますよ。なにがいいですか?」
メニュー表を広げながら、女の人が隣に座る。
黒髪を左下でひとつに結んだ、しっとりとした雰囲気の人だった。
二十四の私よりも、ふたつみっつ……もしかしたらそれ以上年上かなと思う。
名前がわからない……と考えていたのが伝わってしまったのか「北岡といいます」という笑顔の自己紹介を受ける。
「北岡さん、よろしくお願いします。たしか、預金課でしたよね?」
今日一日、預金課と営業課のある一階フロアでコーチをして過ごした。
北岡さんが、同じフロアにいたのを覚えている。
綺麗な人だから、余計に。
「はい。窓口を担当しています。今日は来店客が多かったので出納機を教えていただく機会があまりなかったんですけど。明日からよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「私、今は窓口ですけど、出納担当していた時期もあるので新しい機械の操作、楽しみです。ところで、なににします?」
メニュー表を見せられ「じゃあ、ジンジャーエールで」と答えると、キョトンとした顔を返された。
「あれ、もう飲まないんですか? この飲み会、支店長のおごりですよ」
「はい。でも明日二日酔いでコーチするわけにもいかないので」
笑顔で対応している横から、八坂さんが「こいつ、子ども舌だから」と馬鹿にしたようなことを言われ、ムッと眉を寄せた。
「昔のことでしょ。今はもうおとな舌です」
「〝おとな舌〟ってなに」
「だいたい、私のことどうこう言う前に、八坂さんこそ〝肉がすべて〟みたいな食べ方どうにかしたほうがいいですよ。そのうちお腹出てきても知りませんから」
「それこそ昔の話だろ。俺だってもう野菜いけるし」
お互いに笑顔ながらも内心ムッとしていると、それを見ていた北岡さんが楽しそうに口を開く。