クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
だいたい、理由を追ったところでどうにもならない。
倉沢さんが私の手にキスしたのを見たからって八坂さんが怒る理由はないし、怒っているように見えたのだって、きっと私がおかしなフィルターを通して見たからに決まってる。
期待したからに違いない。
倉沢さんの『意地悪』『お詫び』に関してはもうどうでもいいなと片付け、グレープフルーツのパックジュースだけを買い、外に出た。
毎週楽しみにしていた週刊漫画も読む気にならなくて、なんのために寄ったんだかわからない。
なんだか上手くいかないな、とため息を落としながら、パックジュースにストローを刺そうとしたとき。
「もー、本当にうざいー」
聞いたことのある声が聞こえてきた。
視線を移すと、コンビニの敷地内、駐輪場の隅のあたりで井村さんがふたりの男の人と話していた。
コンビニの看板の明かりだけしか届かないからよく見えない。
私服のところを見ると、これからバイトか、もしくは終わったところだろう。
男の人たちは、井村さんより少し年上に見える。
Tシャツにジーンズって普通の格好だけど、ガタイの良さが際立っていた。
八坂さんもガタイがよくて俗にいう細マッチョって感じだけど……それとはレベルが違う。
身長は八坂さんのほうが高いけど、横幅と厚みが違う。
Tシャツの袖口がピチピチで、もはやボディースーツだ。
ラグビーボールをパスしたら、すぐに走り出しそうな身体付きだった。
十メートル弱の距離から眺めていると、井村さんは男の人に掴まれた腕をブンブンと振っていた。