クールな彼の甘い融点~とろけるほど愛されて~
「だから、もうちゃんと別れたでしょ? 私、しつこい男って嫌いなんだけど。それに、好きな人ができたって言ったじゃない」
「それはちゃんと分かってるって。ただ、俺はまだ亜美のこと好きなんだよ」
話を聞くに、どうやら元彼らしい。
そういえば井村さん、倉沢さんを好きになって彼氏を振ったって言ってたっけ。
「卓ちゃんが私をまだ好きでも、私は別な人が好きなの。だから諦めて。待ち伏せとかされても迷惑」
結構ハッキリという井村さんにハラハラする。
いくら元彼とはいえ、あのガタイだ。
しかも相手はふたりだし……大丈夫かな。
わずかな心配を感じながら眺めている先で、元彼は井村さんの腕を掴んだまま言う。
「しょうがないだろ? 電話に出てくれないんだから。なぁ、亜美。俺、悪いところがあったなら直すからやり直そう?」
ニヤニヤした顔の元彼に呆れてしまう。
井村さんがあれだけハッキリ言ったのに、伝わっていないみたいだった。
「そうだよ、亜美ちゃん。ふたり、似合ってたし、元さやに戻るのがいいと思うけどなぁ」
元彼の友達が、元彼に加勢する。
「な? 周りもこう言ってくれるヤツが多いんだよ。別れるなんて間違ってたんだって」
「や、痛い! 離してっ」
腕を掴む力が強まったのか。
痛そうに声を上げた井村さんに、どうしようと焦る。
「また俺と付き合ってくれるなら、手放すから。俺だって亜美に痛い思いさせるのは嫌だしさ。な?」
「痛……っ、だから嫌だってば! ちゃんと、好きなひとがいるのっ! 本気で好きなのっ」
コンビニに入って、店長さんに報告するべきか……それとも110番か。
とりあえず、警察沙汰にするほどでもないと思い、店内に入ろうとしたとき「あ、瀬名さん!」と、甲高い声に止められた。
……確認するまでもなく、井村さんだ。