Daisy


あれ…誰かいる。
自分に傘をささずに眼の前の猫を雨から守っている。
近づくと、それは、
「…パーカー先輩!?」
意外すぎる人物に私は大声でチンケなあだ名を叫んでしまっていた。

「………おい、パーカー先輩ってのはまさか…俺のことなのか…??」
先輩は無表情に言う。

「……あ!!…そ、れはーですね…気にしないで下さぃ…」

「いや、無理。それに、いくらなんでもパーカー先輩、はないだろうが…」

パーカー先輩はこらえきれず、ニヤニヤしながらそう言って三毛猫に傘を譲ってから立ち上がると、私に近寄ってきた。

「…だ、だって!先輩は名前を教えてくれないから、しょうがないです…」

私は恥ずかしさのあまり顔を背ける。


すると、
「…ッ!?…いったぁー!」
私の脳天に、急に先輩からのゲンコツが飛んでくから飛び上がる。

「…濡れるから傘に入れてくれ。」
「…今の、ゲンコツいりますか!?」
私は先輩の無関係な発言に反論する。
すると、先輩はニカッと笑いながら、前髪をかき揚げる。

なんだかその笑顔は今までにないくらい明るくて、しかも、先輩はとても綺麗な顔立ちで…私は、
「なんだ、可愛らしい笑顔できるんじゃないですか…」
なんて心の中で思ってしまう。

私がそう思っていると、先輩が怪訝な顔をして言う。
「…心の声、出てるぞ。」
先輩は少しだけ照れている。
「…え!?ど、どこの部分が聞こえました!?」
私はしどろもどろでパーカー先輩に尋ねる。
「…教えない。」
「…な!」
やはりその人は意地悪だ!
少しでもときめいた私が馬鹿だった!

「…で、傘に入れてくれよ。」
と、私の傘を取り上げる。
「…わっ!…ちょっと!?先輩!」
私は驚いて長身な先輩に届くはずのない手をばたつかせる。
「…これでよし、ほら、駅まで行くぞ、おいてってもいいのか…?」

そう言ってニヤリ、ちゃっかりと自分も傘に入っている、それでも私がでないよう、私がきつくないように先輩が傘を持っている。

「…良くないです。…ありがとうございます。」
それなのに、素直にありがとうを言えない。
「…っていうか、パーカー先輩って呼ばれるの、嫌ならなんで私に名前教えてくれないんですか?
教えてくれないと私は先輩をどう呼べばいいかわかんないですよ!」
私は歩き出してから先輩に尋ねる。
これは正論だと思うし。
「…なんで、って…俺の名前を知った奴は離れていく。だから嫌なんだ。」

私は意味がわからずポカンとする。
それに、その時の先輩の表情はなんだかさみしげで…なんだかほっとけないじゃないか。

「…どうして?名前だけで離れるなんておかしいです。先輩は確かに意地悪だし、変わってるけど、先輩が優しいことは絶対です。」

私はそう思っていることを口にした。

「…お前なぁ、けなしてんのか、褒めてんのかわかんねえよ。」

先輩はそう言ってそっぽを向く。
よく見ると頬が少しだけ赤い。
(…なんか、少し可愛らしい。)
私は先輩を見て、そんなことを思う。
「…ちゃんと褒めてますよ!」
私はそう言って先輩ひ笑いかけた。

「…あぁ、お前みたいなのは蓮以来だな」

先輩はそう言ってニカッと笑う。

「…なぁ、お前の名前なんていうの、」
先輩はぶっきらぼうに言うと照れ隠しなのか、頭をガシガシと掻いてる。

「…小鳥遊 春馬です、って、昨日もいいましたからね!」

私は先輩にツッコんだ。
「…先輩こそ名前、教えてくださいよ。」
私はにこやかに尋ねる。

「…相模 玲弥(サガミ レイヤ)」
先輩は渋々だけど名前を教えてくれた。
「…全然ふつうじゃないですか!?」
「…知らないんだな。」
先輩はボソッと言った。
「…??何をです?」
私は先輩に聞き返す。
「…俺はヤクザの息子だ。三男だけど、それで校内のヤツらにビビられる。」
また、さみしげな顔をする。
「…??だからなんですか…?私は普通ですけど。っていうか、それで先輩ガツガツのヤンキーなら少しだけ怖いかもですけど…特別クラスの頭いい人なら全然大丈夫ですよ?」
先輩は唖然としてる。
「…そんなこと初めていわれた。」
先輩は恥ずかしくなるくらい見つめてくる。

「…と、とにかく、これからは、レイヤ先輩って呼びますね!」
私は暑くなりそうな顔をパッと背けて早口に言った。

「…?なんだ?急に早口で。ま、よろしくな、で、俺はお前をなんて呼べばいいんだ?」

「…小鳥遊、でもハルとか、ハルマ、とか、ですかね。」
先輩は少し考えて、
「…そんじゃー小鳥遊(タカナシ)って呼ぶことにする!」
レイヤ先輩はそう言ってニカッと笑う。

これはなんだろう、私の中で、不思議でよくわかんない感情が芽生えてる。
それはともかく、この人はとにかく不思議でよくわかんない人だなと思っていたのが、今となれば、照れ屋て、優しい、けど、毒を吐く、なんだか面白い人だとわかった日だった。


< 11 / 33 >

この作品をシェア

pagetop