Daisy
夕方、もう日も暮れかけていて、薄暗い空…

俺はアイツの忘れ物を抱えて帰宅した。

今日はなんだか騒がしい…
とは言ってもいつものことなので大して変わらない。


「…お、若頭じゃないですか!
なんですか、その荷物?」

「…知り合いの忘れ物。」

「…な!?そりゃ大変だ!
若頭!貸してください、今爆弾とかないか調べますから!」

若衆の彼はバタバタと俺へ駆け寄ってきた。

ヤクザならではの会話にはもうなれているが、他の家庭では人の忘れ物を爆弾だと疑うはずがないからなんだか滑稽な感じだ。

「…いや!そんなに神経質にならなくてもいい、アイツはそんな物騒なことできねえから。」

「…もしかして…女ですか?」

「…あぁ、」

「…マジですか!?…とうとう若頭にも彼女が!」

「…はぁ!?
違う違う!!女だけど友だちだから!」

「……なんだ、付き合ってないんすか。」

「…なんだよ。悪いか。」

「いいえ!そんなことはないです。」

「…ま、いいや、これは冷蔵庫に入れといてくれ。」

「…了解っす!…重っ!?」

「…だろ?これを女が持って来たんだからすごいもんだよ。」

春馬は今頃どうしてるんだろうか…?
と、俺は少しばかり明日を楽しみにしている。

春馬といると楽しくて、よく見せる無防備な笑顔にいつも癒されてる。

こんなのはいつぶりだろう…?

「…俺も負けてられないっすね…頑張ります!」

出迎えてくれた下っ端の若衆はそう言って春馬の忘れ物をしまいに行った。

「おう、頑張れよ…。」

生返事をして自室へ向かう。

春馬…この名前には驚いた。

昔の幼馴染みと同じ名前だったから…

俺が小学生の時だった…
一つ年下で今はアイツと同い年。
弟みたいで可愛いがってたし、犬みたいに人懐っこい奴で楽しかった。

確かうちの組の息子で宮島春馬…だ。

幼馴染みの春馬の父、宮島さんはうちの組の中でも腕利きで信頼も厚かった。

うちの親父もそれは同じでよく話していた…。

今はもう亡き人となってしまったけれどとてもいい人だった…


五年前、

春馬といつものように遊んでいた時、ふと気づいたら春馬がいなくなっていた。

急いで帰って親父に知らせると、もうみんなそのことを知っていたようだった。

春馬と春馬の母が契約をしている組に人質として捕えられていて脅しをかけられた。


内容は2人を無事返して欲しければ、百万を用意しろとのことだった。




「…くそ、どうして…」

宮島さんは怒りに肩を震わせていた。

俺が目を離さなければ…春馬だけでも拉致されずに住んだかもしれないのに…。

そうして人質の2人を救うために百万円を準備した。

でも、渡すつもりは無い。

まあ、殺さないけど懲らしめるというところだ。

父いわく殺すといろいろめんどうだかららしい。(証拠隠滅とか…)


宮島さんが2人を引き取りに行く

その後2人を引き取り次第、相手をボコす。

そういう計画らしい。


しかし、そう上手くは行かなかった…


計画がバレてしまったため宮島さんは銃で打たれてしまう。

相手側にはその後すぐに逃げられた。

春馬と春馬の母はその騒ぎの中でどうにか助け出せたみたいだが…


宮島さんは帰らぬ人となってしまった…

春馬とその母沙羅さんはどうなったかは知らないが…

親父に聞いたら今はどこか安全なとこで生活をしているらしい。

それからは一度もあっていない。


「…元気だといいけど…。」

もう一度、春馬に会いたい。

けどそれは無理だ…あってしまえばまた何か起こりそうで怖いから…

おれと関わることで関係の無いやつが傷つくのはもう見たくない。


宮島さんの家族じゃなくて俺だったら…

まだどうにかなったはずだ。

あの頃の俺は護身術とかいろいろ身につけていたから捕まらずにいられたのに。

今更だけどそう思う。

俺は…小鳥遊春馬を昔の幼馴染みに重ねてしまっているんだろうか?

「…れいや!」

「…?なんだ。蓮。」


蓮とは中学からの仲でうちの組の奴の息子だ。

そんなわけで蓮は俺の世話係…まではいわないけれど、

蓮とだけは仲良くしても問題は無いし、
喧嘩はとても強いから、俺のもしもの時の護衛とも言えるだろう。


「…春馬って…あの子だろ?
近頃いつも一緒にいる…」


「…あぁ、それが?」

「…まじかよ…そこらのチンピラが春馬ちゃんを拉致してるぞ?」

「…はぁ!?なんでだよ!」

「…そりゃあ、お前との喧嘩目当てだろうが…ここらで一番喧嘩強いのお前だから…」

「…チッ…行くぞ。」

「了解!若頭!」

「…それやめろ…俺は継がねえし。」

そうして、俺と蓮は指定された場所へ…

春馬を助けに行った。

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