Daisy

そうして午後の授業を終えた私は、またいつもと同様に凛と別れて花壇へと向かう。

ホースを取り付け、水やりを始めようとした、その時に私はあの水浸し事件を思い出してバタバタと梅の木の所へ確認をしに行った。

やはり私の感は当たっていた。
あの先輩は気持ちよさそうに寝ている。
今日はなんと三毛猫まで…
三毛猫は彼の腹の上で寝ていて、1人と一匹で気持ちよさそうに寝息を立てている。

「危ないなぁ、また今日も水掛けちゃうところだった…。」
小さな声で呟いて私はホースの元へ戻ると花壇の方に水やりをした。
そして梅の木の水やりはあの一匹とひとりを起こさないと、ホースも届かないからどうしても水をかけてしまう。

ひとまず水を止めて、先輩達を起こしにいく。

梅の木の前にある低木をまた越して近寄って先輩を起こそうとした。


すると、私はその先輩がパーカーを来ていたことに気づいた、色は昨日と違う黒色のパーカー…いったいいくつのパーカーをもっているのだろう。

ふとそんなことを考え込んでしまい、じっと先輩達の隣でその先輩を観察していると不思議な点をいくつも見つけてしまい、考え込んでしまっていた。

髪の毛は明るい茶色、そこまではいい…しかし、前髪がとっても長いせいで顔は一切見えない。

そしてお腹の上の三毛猫ちゃんは私にはすっかり懐いてくれなかったのに…この人にはとても懐いているし、私が近づいても起きない。
とてもリラックスしてると思われる。

どうして私には懐いてくれないのか不思議だ。
せめて一撫でさせてもらおう…と、私は夢にまで見た三毛猫ちゃんのモフモフの背中に手を伸ばす…。

「あとすこし…」
思わず小声が出る。
あと10cm…と、その時に猫が目を覚ました。

「…あ! またか…。」
私は三毛猫ちゃんに逃げられてしまい、がっくりと肩をおとす。

「…ま、しゃーないな」
そう呟いたとき、
「…おい、またお前か…」
男の人の声、私はびくっと肩がはねて先輩の方を見る。

その先輩は既に起きていた。

まぁお腹の上の猫がのけば無理もない…

「…お前さぁ、俺のことじっと見つめ来るもんだから起きにくかっただろうが、人の安眠妨害はやめてくれよな…」

私は驚きに目を見開く。

昨日の先輩とは打って変わって憎たらしい物言いを容赦なくぶつけてきた。
まあ、観察してた私が悪いのだけれど。


「…って、気付いてたんですか!?」

私は先輩の憎たらしい物言いよりも、衝撃の事実を前に私は大急ぎで先輩から飛び退く。

「…あぁ、」
けだるそうにいう先輩。

「…そんな、遠慮せずに起きてよかったですよ!?」
とても恥ずかしい、今にも顔が火を吹きそうだ。

「…ぶっっ!! りんごかよ!」
今度は私の顔をバカにしてきた…
「…な!! 恥ずかしいだけですよ!リンゴだなんて、そんな失礼な!」

今度は怒りも含めて顔が赤くなる。

「やっぱりんごだな!」
先輩はニヤニヤしながらいう。

「…はぁ、もういいですから…。
とりあえず、水やりするからあのへんまで離れてから寝て頂けますか?」

私は不機嫌顔で呆れたように先輩にいった。

「…ほーい、」
先輩はつまらなさそうに返事をして、足下の猫を連れて移動する。

私はホースを取りに戻る。
先輩の方をちらりと見ると三毛猫を膝に乗せてふわふわの毛並みをナデナデ…。

…羨ましい!私もなでたいのに!

そう思いながらホースを手に取り、梅の木のに水やりをする。

先輩達は今度は寝らずに私の背中を見つめてる、視線を感じるからやりにくい。

「…あ、あの、…非常にやりにくいんですが。」
そう言って先輩達の方を振り返る。

「…仕返しだ、お互い様だろ?」
先輩はまたニヤリと笑う。

「…わ、わかりましたって!
もうしませんからぜひ、ごゆっくりと寝てて下さい!」

この人は意地悪だ!

私の中での先輩の優しいイメージは消え去り、あの意地悪な笑みだけが頭の中でグルグルしている。

三毛猫ちゃんは彼の頭の横で丸くなる。

三毛猫ちゃんが毎日会う私に懐かずに昨日からの先輩に懐くなんて…

私は、三毛猫ちゃんにふられたような切ない気分に陥った。


そして水やりを終えた私は梅の木の手入れをはじめる。
あと15日ほどで収穫だろう。

先輩達を見てみりと、相変わらず気持ちよさそうに寝息を立てている。

よくもこんなに暑い中で、しかも黒いパーカーまで着て寝れるものだ。

少し早めに目を覚ました蝉が元気よく鳴いている。

私は遠くで見るのは好きなんだけど、急に近くに来られると驚いてしまう。

梅の木にも恐らく止まっているに違いない、私はそう思い、そーっと梅の木に手を伸ばす…

案の定、梅の木には蝉がいたようで大きな鋭い鳴き声とともに私の方へ勢いよく向かって来た。

「…ぎゃ!!」
私は女らしからぬ叫び声をあげて逃げる…
後ろに向かって一気に駆けすと5歩目ぐらいで足に何か引っかかった。
多分、木の根っこだろう。
「…う、」
私はバタン、と地面に倒れ込むが、ふと違和感に気づいた。
なんかいる。
「……いってぇーな……はぁ?」
なんと私はこけた拍子に先輩の上に倒れ込んでいたのだ!

「……こりゃなんだ?お前なんのつもりだよ…」

彼は全く動じることなく、寝ぼけ顔で深いため息を吐く。

彼の顔と私の顔までの距離はなんと、わずか数センチ、今にも鼻が触れてしまいそうだった。
「…………わ、わぁー!!
す、すいません!今すぐのきま…」


「…否定しねぇのな、」
先輩は呆れたふうにいう。
そして私は、大急ぎでのこうとして焦った私は草に手をすべらせてしまい……。

彼の鼻頭に思い切りずつきをかましてしまった。

「…っ!?」
先輩は私の肩をガシッと掴んで横に押しのけて鼻頭が抑え、丸くなった。

「……すみません!あの……鼻血出てますか?」

これは大変なことをしでかした…
先輩の上に落ちる上に頭突きまでしてしまうなんて。

「…頭突きは ねぇだろ!このバカ!」
鼻の下からは赤い血が一筋、2筋と流れていく。

「…ほんとにすみません…
あのこれ、使って下さい!あと、保健室、行きましょう!」
私の自前のティッシュで先輩に鼻を抑えてもらう。

とりあえず鼻血の対処をしないといけない。
「……これは派手に打ってるねー……どうしたの?」
そう言って先輩を見る保健室の先生。
「…まぁ、骨まではやられてないから大丈夫でしょう。」
そう言って保健室の先生は笑う。

私はその間中ずっと前髪で見えない先輩の瞳で睨みつけられた私はすごくいたたまれない気分だった。

そして先輩の鼻には綿が詰められ、鼻血が止まるまでベッドにねる事になった。

私はというと、額にそれは大きなたんこぶが出来てしまい、先輩がねている間に氷水で冷やした。

多分これはアザになる。
しかし、私はほんとにバカなことをしてしまった。

昨日は水浸しにして、今日は乗っかってしまい、さらに頭突きと来ると迷惑極まりないだろう。

「……はぁー。」
私は肩を落としてとても深いため息をついた。

保健室の先生はもう帰っており、私は先輩のおもり、
それは私が怪我をさせたからしょうがないけれども、あんなことのあとだ、緊張してしまう。

「…はぁー。どうしよー。」
私は小声で呟いて頭を抱える。

「…おい、血、止まった。」
先輩のいかにも不機嫌な声がベッドのカーテン越しに聴こえた。
私はびくっとして、
「は、はい!あ、あの、保健室の先生は止まったら帰っていいって言ってましたよ!……ほんとにすみません。」

私はまだ心構えが出来ていないため、動揺して早口に先生の伝言を伝えてから、カーテン越しに先輩に真面目に謝罪をした。
「……昨日に続いて今日まで睡眠の邪魔されるなんて思わなかったよ。」
先輩は深いため息をついた。

「……すいません。」
私は謝るしかない……だけど。
「…そんじゃ帰る。」


そう言って帰っていった。

今の時間は6時半、もう日は沈みかけていて、薄暗いし、電気も消えた校舎は真っ暗である。


そして私は保健室の鍵を閉めて職員室に返しに行く。

職員室に残った先生は極わずかだし、いつもよりは気安く入れたからよかったれど。

昔から暗いのが嫌いな私は下駄箱に行くまでが長く感じられて、心細い。

「……あれ?小鳥遊さん?」

あれ、この声は…
私はそう思い振り返る。
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